フリーペーパー「たね」寄稿

フリーペーパー「たね」寄稿

Torus Vil. が拠点とする松本市四賀地区発のフリーペーパー「たね」2021年秋号に寄稿しました。
近年力を入れている活動について書いたものです。

 

東京から四賀に越してきて4年。おかげさまで、コロナ禍の影響は受けながらもマイペースに仕事を続けています。元々は四賀の伝統的なお囃子などについて、というお話で声をかけていただきましたが、まだ四賀でちゃんとした調査取材はできておらず、代わりに情報募集を兼ねて近年の活動について書こうと思います。僕は、東京で芸大音楽学部の音楽環境創造科という一風変わった科に在籍していたころから、アートの世界と関わりながら様々な音楽を作ってきました。
東京から四賀に越したのは主に自宅で自由に音を出して、録音作品の自主制作にも力を入れたいという動機からです。ピアノやアコーディオンを演奏する妻と共に「3日満月」というデュオで歌、パーカッション、ヴァイオリンを演奏したり、ダンスや人形劇など舞台の音楽、映画やCMの音楽など、その時々で様々な曲を作っています。


個人的に近年一つのテーマとして取り掛かっているのが、日本ないしアジアの郷土芸能や伝承歌のリズムや節回しです。2015年に、新潟県で開かれている「大地の芸術祭  越後妻有アートトリエンナーレ」で滞在制作のプログラムに参加し、十日町市で歌い継がれている祝い歌「天神ばやし」に感銘を受けたのが大きなきっかけでした。
ラジオやCDで触れていた民謡歌手の民謡だったり、箏曲や琵琶語りなどにはにそこまでピンと来ていなかった(好きではあるのですが)のが、十日町の地元の方が生活の中で歌い継いできた歌を聴いたときには特別な感動を覚えたのです。
僕は音楽を中心に活動し始めた頃から、核となるスタイルを見つけられないままひたすらに実験(迷走?)を続けてきましたが、例えばジャマイカにおいてのレゲエだったり、ブラジルにおいてのボサノヴァなどに相当するような、日本に生まれ育った自分の身体に馴染むジャンル/スタイルが日本にないものかと思っていました。伝承歌や郷土芸能の取材に意欲的になったのは、こうした出会いを重ねる中で、納得のいくスタイルを見つけられるかもしれないという思いからです。
幸いなことに近年徐々にそうした機会をいただくようになり、岩手などの三陸沿岸地域の郷土芸能に関わる企画や、韓国南端の島、南海島の伝承歌のプロジェクトに継続的に関わって探求を続けています。三陸では一昨年「金津流浦浜獅子躍」、「石橋鎧剣舞」といった芸能を習いながら制作をし、今年は「中野七頭舞」、「大槌虎舞」、「八戸えんぶり」などの芸能団体のコラボレーション公演に参加しています。


そういった中、これまでの経験を生かして長野県でも同様のテーマの活動を始めようと思っています。新たな地域を訪れて調査取材を行うのはなかなか難しい昨今ですが、伊那市を拠点とする芸能団体「田楽座」さんの協力を得られることになり、田楽座さんが長年協働している南信州の郷土芸能を教えていただくことになりました。

四賀でも取材を出来たらと思い、周りの人たちから情報を集めています。ひと昔前なら田植え歌は間違いなくあったはずで、さらに近所の方に聞いたところ、昔は雨乞いの儀式もやっていたとのこと。雨乞いに関する歌や祝詞など、知っている方がいないかと探しています。
四賀に住み始めてから、大変ありがたいことに土地のものをいただいたりして食べることが多いです。音楽のエッセンスにおいても、この土地が育んで来たものを見つけられたらと思っています。 
昨年からは制作してきた音楽もコロナ禍の影響で発表の機会を失うことが多く、なんともやりきれない思いですが、映像などの形で徐々に発表しています。今年は松本市のサポートを得て、四賀の素敵な空間の紹介を兼ねたライブ映像を制作中です。三陸の郷土芸能に関する作品なども諸々ウェブサイトで発表していく予定なので、ぜひご覧いただけたらと思います。
また取材に行けそうな郷土芸能、伝承歌、作業歌など「たね」をお読みの方で耳より情報がありましたら、ご連絡いただけるととても嬉しいです。

 

佐藤公哉
ウェブサイト:https://torusvil.com/
メールアドレス:torusvil@gmail.com